2013年12月13日金曜日

木造住宅の壁量計算を深く理解する その1 「地震力に対する必要壁量」

階数が2階建て以下、延床面積500㎡以下、最高軒高9m以下、最高高さ13m以下の木造住宅は、四号建築物と呼ばれ構造安全性検討は「仕様規定」として建築基準法施行令に規定されています。

仕様規定では令46条に「壁量計算」があり、木造住宅は地震力、風圧力に対する安全性を壁量計算にて確認することになります。

この壁量計算はとても簡単なため、結構甘く見られています。
しかし、この壁量計算は深く理解することで木構造の基本がわかって来るのです・・。

令46条の壁量計算は、各階(1,2階)、各方向(X,Y方向)の地震力及び風圧力に対する「必要壁量」を算出し、実際に配置する耐力壁による「存在壁量」が多いことを確認する計算です。

噛み砕いて説明するとこんな感じです。
・必要壁量
壁量計算しているこの木造住宅に作用する地震力に対抗するためには、 これだけの耐力壁の量が必要ですよ
・存在壁量
設計上配置する耐力壁はこのくらいの量になります
・判定
必要としている壁量に対して、設計上配置する存在壁量の方が多いため この木造住宅は地震に対して抵抗でき安全ですよ

必要壁量は、地震力又は風圧力のうちどちらか大きい方を各階、各方向ごとに採用します。
例えば、こんな感じです。
2階X方向 必要壁量→ 地震力のほうが大きいため地震力で決定
2階Y方向 必要壁量→ 風圧力のほうが大きいため風圧力で決定
1階X方向 必要壁量→ 地震力のほうが大きいため地震力で決定
1階Y方向 必要壁量→ 風圧力のほうが大きいため風圧力で決定


地震力に対する必要壁量の算出
地震力に対する必要壁量の算出についてポイントを説明します。

地震力に対する必要壁量=床面積×床面積に乗ずる数値
で計算します。
「床面積」は見下げ面積で、通常の建築基準法に準じて算出している床面積のことだと思ってください。
「床面積に乗ずる数値」とは、令46条に規定されており、
計算する木造住宅の屋根仕上げにより「重い屋根」、「軽い屋根」
階数により「平屋建て」、「2階建ての2階」、「2階建ての1階」
ごとに必要壁量の数値が決められています。単位はcm/㎡です。

ちなみに「床面積に乗ずる」とは床面積に掛け算してくださいという意味です。

この数値は、屋根仕上げが重いほど大きくなり、建物規模が大きくなるほど数値も大きくなります。
ここが重要で、建物重量が大きくなると作用する地震力も大きくなるため、必要壁量が多くなります。
よって、存在壁量を多めにします。

これを偏って解釈されていることが多く、
「瓦屋根は重量が大きくなり地震に弱い!」となってしまいます。

これは大きな間違いです。
繰り返しますが、「瓦屋根は重量が大きくなり地震力が多く作用します。なので耐力壁を多めに配置して安全性を確保しましょう」となるのです。
決して瓦屋根の木造住宅が地震に弱いわけではありません。

積雪量を考慮した必要壁量
この床面積に乗ずる数値には積雪量を考慮したものがあります。
2×4工法の告示(平成13年 国土交通省告示第1540号第五)に規定されているのですが、
積雪量を考慮して数値が大きく設定されています。

雪の多い地域は多雪地域に指定され、県条例などにより積雪量が決められています。
よって、多雪地域では積雪量を考慮した必要壁量を算出することをお勧めします。

緩和措置
必要壁量算出には、緩和措置があります。
・バルコニーの緩和措置
床面積に参入しないバルコニーは、地震力に対する必要壁量算出用の床面積にも参入しなくてよい。こんな緩和措置です・・・。

これをもっと深く考えてください。

先に説明しましたが、「建物重量が大きくなると作用する地震力も大きくなる」
この基本を忘れずに考えればすぐにわかることですが、
バルコニーは建築基準法上 床面積に算入しなくても、存在していることで重量は発生しています。
実際にバルコニーのある木造住宅はバルコニーの重量分重くなっているのです。

と言うことは、バルコニー面積も床面積に算入し必要壁量を算出した方が安全側の設計になります。
これは強制ではなく「設計者判断」となります。
地震力のことをちょっと理解できれば、バルコニーを無視することはできないはずです。

ちなみに、幅5.46m×奥行0.91m=4.97㎡のバルコニーを、重い屋根の2階床面積に算入して必要壁量を算出してみます。

重い屋根、2階建て2階の床面積に乗ずる数値=21cm/㎡
バルコニー追加分の必要壁量=4.97㎡×21cm/㎡=104.37cm

筋かい4.5cm×9.0cm片掛け 壁倍率2倍の耐力壁がどれくらい必要か
計算します。

必要壁量104.37cm÷壁倍率2倍=52.19cm(0.5219m)
*柱芯間距離0.91mに筋かい4.5cm×9.0cm片掛けの耐力壁があればバルコニーの面積増加分は十分カバーできるのです。

・小屋裏収納の緩和措置
小屋裏に収納がある場合、直下階の床面積の1/8以下であれば床面積に算入しなくてよ。さらに天井の高さにより、小屋裏収納の床面積を緩和することもできます。

これも、バルコニー同様に考えましょう。
小屋裏収納がどんなに小さくても存在していれば重量は発生します。
と言うことは、緩和するための計算方法を一生懸命覚えるよりも、
地震力のことを考えて、床面積に算入して必要壁量を算出した方が安全側の設計となります。
これも強制ではなく「設計者判断」です。

以上、地震力に対する必要壁量算出には、地震力の特徴をちょっとだけ理解しているだけで精度の高い安全側の設計が可能になります。
この提案を過剰設計と思うかどうかは設計者の判断となります。
しかし、この程度の安全側の設計が過剰設計となるような木造住宅自体がかなりの過小設計と考えるべきだと僕は思います。

次回は、風圧力に対する必要壁量について解説します。

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