2014年1月15日水曜日

木造住宅の壁量計算を深く理解する その3「存在壁量の算出と壁量の判定」

今回は木造2階建て住宅(四号建築物)の仕様規定における、令46条壁量計算の解説第3弾、「存在壁量の算出と壁量の判定」です。

存在壁量の算出
前回までは、地震力に対する必要壁量と風圧力に対する「必要壁量」の算出について解説しました。壁量計算は、「必要壁量」に対して、「存在壁量」が多いことを確認して終了となります。

では、存在壁量とはなんでしょう?
存在壁量とは壁量計算をしている四号建築物に設計上配置する(存在する)耐力壁の量です。

   壁量=壁倍率×耐力壁長さ(単位:m、cmなど)

必要壁量を算出した各階、各方向ごとの壁量の合計が「存在壁量」となります。

例えば、1階X方向に、
壁倍率2.0倍、長さ0.91mの耐力壁が5枚、
壁倍率4.0倍、長さ1.82mの耐力壁が3枚あるとすると存在壁量は、

壁倍率2.0倍×0.91m×5枚=9.10m
壁倍率4.0倍×1.82m×2枚=14.56m
1階X方向の存在壁量=9.10m+14.56m=23.66m となります。

壁量の判定
壁量計算の最後は、壁量の判定です。
壁量の判定は、

「必要壁量≦存在壁量」 の確認です。

例えば、1階X方向の必要壁量が22.00mだとすると、
壁量の判定 必要壁量22.00m<存在壁量23.66m OK
一般的な壁量計算はこれで終了です。

精度の高い壁量計算①
ここからは、壁量計算の精度を上げるための判定方法を紹介します。
例えば、
1階X方向 必要壁量22.00m<存在壁量23.66m OK
1階Y方向 必要壁量15.00m<存在壁量25.00m OK
2階X方向 必要壁量13.00m<存在壁量21.00m OK
2階Y方向 必要壁量10.00m<存在壁量20.00m OK

上記の壁量判定はすべてOKです。
ここで重要なことは、各階各方向の壁量がどの程度余裕があるのかを確認することです。
そこで、充足率(どの程度余裕があるのか)を確認します。

壁量充足率=存在壁量/必要壁量 で計算します。

1階X方向 充足率=存在壁量23.66m/必要壁量22.00m=1.075
1階Y方向 充足率=存在壁量25.00m/必要壁量15.00m=1.666
2階X方向 充足率=存在壁量21.00m/必要壁量13.00m=1.615
2階Y方向 充足率=存在壁量20.00m/必要壁量10.00m=2.000

この充足率で、1階X方向の充足率はギリギリ壁量が足りていることがわかります。
それに比べ、1階Y方向は必要壁量に対して存在壁量が約1.6倍以上の余裕があることがわかります。

地震力や風圧力などの水平力は壁量計算のようにX方向、Y方向に都合よく作用しません。
様々な方向から作用します。
ということは、各階で方向ごとの壁量充足率に差がありすぎると、建築物に斜め方向から作用した水平力に対して抵抗力に差が生じます。
簡単に言い換えると、建築物の揺れ方や変形の具合に差が出てしまうのです。

そこで、各階の壁量充足率はなるべく近い数値にしておくことがお勧めです。

どの程度近い数値かという指標はありませんが、
壁の配置バランスの簡易計算である四分割法の壁率比の考え方を用いれば、

壁量充足率の小さい方/壁量充足率の大きい方≧0.5

が良いのではないでしょうか。
この式の意味は、充足率の小さい方と大きい方の比率を1:2以内に収めましょう、それ以上の差があるとバランスが悪いということです。

そこで、1階X,Y方向のバランスをチェックします。
壁量充足率の小さい方/壁量充足率の大きい方
1.075/1.666=0.645>0.5 OK

こんな感じです。

精度の高い壁量計算②
もう一つ、精度の高い壁量計算を紹介します。
次は、上下階のバランスです。

これは構造計算で行う「剛性率」と同じような考え方です。
剛性率は簡単に説明すると、各階の水平力に対する変形の差を確認する計算で、各階の変形の差が大きいと、変形の大きな階が水平力により倒壊してしまう可能性があるため、これを防ぐために剛性率は重要な計算なのです。

そこで、壁量計算にものこ剛性率の考えを取り入れます。
今度は、各階の同一方向の壁量充足率のバランスを取ります。

具体的には、
同一方向充足率の小さい階/同一方向充足率の大きい階≧0.6 
を計算します。

計算してみましょう。
1階X方向 充足率=存在壁量23.66m/必要壁量22.00m=1.075
2階X方向 充足率=存在壁量21.00m/必要壁量13.00m=1.615

X方向下階バランスチェック
1階X方向充足率1.075/2階X方向 充足率1.615=0.665 OK

1階Y方向 充足率=存在壁量25.00m/必要壁量15.00m=1.666
2階Y方向 充足率=存在壁量20.00m/必要壁量10.00m=2.000

Y方向上下階バランスチェック
1階Y方向充足率1.666/2階Y方向充足率2.000=0.833 OK

どちらの方向も上下階のバランスは良いことがわかります。


今回紹介した精度の高い壁量計算①、②は僕が著書である「最高に楽しい木構造入門」で勝手に提案している方法です。
建築基準法などで決まっている方法ではありません。
しかし、簡素な壁量計算の精度が高くなると思います。
設計者判断で利用してください。

次回は、壁量計算の最後、「壁量計算による耐震等級」について解説します。

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